物心ついてからお年寄りと目が合うとお年寄りは必ず笑顔をくれました。ただ子供の目にも無理に作ったような不自然な笑顔が半分近くありました。母に聞いたのですが、私は生まれて一カ月で重い肺炎にかかり年老いた医者が「この子は今までの経験ではもう助けられない。あきらめてくれ」と宣告されたそうです。両親は先祖が眠るお寺に幼児の葬式の相談をしたそうです。それが運よく生きながらえたものですから祖母が大変喜びあちこちに「うちの子は先祖の加護が厚く先祖に呼び戻された。粗末にできない」とあちこちに自慢してまわったらしいのです。祖母の生家は近所にあり、なみなみならぬ祖母の勢力が近所にあったのです。友人の多さでは遠くから嫁に来た母はどうしても祖母にかなわないのでした。祖母の自慢を聞いたお年寄りは「○○の先祖と縁が深い子」というイメージを持ったかもしれません。その矢先の「先祖が許さない」事件です。また祖母は私をいつもそばに置いて手放さないのも母が気に入らなかったらしい。
近所の子供がお年寄りを中心にした輪を作って昔話を聞いているときなど私が輪に入ると笑顔はくれますが、しばらくすると「用事を思い出した」とか言ってお年寄りはいなくなってしまった経験がよくありました。近所で新しい棟の新築があった時、郷里では無事を祈ってお菓子や餅を撒きます。お菓子や餅を撒く役はその家の顔、お年寄りです。ある時年長の子供から言われたのです。「お前はお年寄りから好かれている。前もそうだったがお前の周りに飴が雨のように降っている。だから俺は餅まきのときはお前のそばを離れない」
近所にQさんというお年寄りがいました。彼だけが私と目が合っても笑顔をくれないのです。すぐに目をそらすのです。なるべく私を見ないよう避けているようなのです。郷里では秋に豊年祭があり最大の行事です。地域の人はタダでお酒が飲めるし祭りが昔から好きなようです。大人がする獅子舞、笛太鼓もありますが、子供も演舞などの行事に参加するのです。数人の選ばれた子供です。要するに酔っ払いのための演目ですが、祭りの期間だけはとても大切にされます。10歳の時、なり手がいないとお祭りの実行委員から私に参加してくれ、毎夜2時間練習しなければならないがおやつが出る。一度やっておけば一生神様の加護があるとか言って両親を説得したのです。Qさんも祭りが好きらしく、また演目に詳しく祭りの指導員を務めていた。その年は子供の指導はQさんの担当になったのです。Qさんの指導は厳しく泣く子供も過去にはあったのです。数人の子供を集めてQさんの指導が始まりました。学び始めて一週間ほどで不思議なことに気がついたのです。最初にやり方を説明してくれたのですが、私に間違いを指摘しないのです。これでいいのだと思っていたが、隣の子が大声で叱られていたのです。中身を聞いてみると自分も同じ過ちをしているのです。それからは他人が叱られているのを見て直していったのです。こちらから教えを請うと時間をかけて丁寧に教えてくれますが、Qさんから叱られることはないという異常な教えです。また別の子供が叱られていたのです。笛の練習をしていた大人と仲が良いらしく練習を少しサボったのです。「まじめにしろ。○○の子を見習え。彼は何も言わなくても人が注意されているのをしっかり聞いて自分で修正している」私を持ち上げるのです。私はこのままでは本番で恥をかくと必死だったのです。今振り返るとQさんも笑顔はなかったが気を使っていたようです。
子供の時はお年寄りが気を使ってくれて居心地は良かったかもしれないが、お年寄りと接点がなく自分の人間形成では結局は損をしていると思う。私に笑顔を送ってくださったお年寄りも高校入学前にはお墓に入りました。
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